白蝶Chapter 1 Hobbit編
-バギンズ-

第十六話 死誘う氷原

 ――私は闇だった。年古りた諸悪の根源であり、酷寒と灼熱の主であるその人の配下であった。そこにはビルボ・バギンズなどというホビットは存在せず、何か別のものとなって松明に照らされた財宝部屋の薄暗がりへ溶けていた。ああ、なんて気分が良いのだろう。中つ国の生き物は腐敗し、冥王の手中へ収められたも同然であった。私は己が一介のビルボ・バギンズに過ぎぬことを忘れて高らかに哄笑した。そうだ、あの哀れなホビットが私であるはずがない。私は「眼」だ。悪鬼や黄金竜、オークの大軍を従えた恐るべき憎悪の塊なのだ。  しかしふと、バターと生クリームをたっぷり塗りたくったパンケーキを食べたいと奇妙な食欲に囚われた。はて、闇の将軍たる私がそんなものを欲するだろうか。悪の権化が、青々とした農耕地を愛しいと、パイプ草などという玩具を懐かしいと思うだろか。いや、いや、違う。私は闇の召使いではない。私の名はビルボ・バギンズ――そうだ袋小路屋敷のバギンズだ。  平和を愛するビルボこと私は何者かの意識の中で覚醒した。さだめて自分のことが分かる。だが身体が言うことを利かない。私は硝子玉の中にいるような息苦しさを感じながら絢爛豪華な牙城を徘徊し、横臥する一匹の大トカゲと一人の娘を眺め下ろした。大広場へ住着くそれは黄金の爬虫類である。煌めく化け物は柔らかな蛇腹を娘へ提供して仲睦まじく寝入っていたが、おもむろにどこかで腹の虫が鳴いた。するとトカゲは瞼を伏せたまま部屋の一角を示し、「オークの肉ならたんまりあるぞ」と漫ろに唸った。 「……遠慮します」  娘はろくに面も上げず言い返した。ひとかたならぬ大きな鼻孔がぴくりと動く。蛇のごとき美しい尾が緩りと動き、天井を掠るほど高くしなったと思うや、力一杯に財宝の山を叩き付けた。磨き上げられた金銀財貨、黄金張りの椅子や彩り鮮やかな宝石が重力に沿って降り落ちる。途端、娘は地を揺るがす轟音に飛び起き、雨あられと落下するそれから慌てて身を守った。 「な、な、なな何ですか、グラウルング」 「それはわしの台詞じゃ。そなたは食について口を開けば文句ばかり。オークの肉はいやだ。ドワーフなんて絶対無理。エルフの肉は以ての外で、人間と来れば食べるどころか墓を作って埋めてしまう。それでは何なら食えるというのじゃ」  黄金のトカゲが怒り心頭で咆哮するや、娘は素早く部屋の隅へ避難して膝を抱えた。燭花が彼女を照らし、珍しい面立ちが露わになる。驚くべきことに私はその人を知っていた。濡れ羽根色の髪、小柄な身体――見間違えるはずがない、あの人だ。私は気付いて欲しくて彼女を呼ぼうとした。しかし直ぐさま断念した。喉まで出掛かっているのに、その名を紡ぐことが出来ない。私は彼女を知っているのに知らなかったのだ。 「何って……お米とか。あ、魚も食べたいです」  なぜだろう。その人は私が知り得るあの人よりか弱く、平々凡々な娘に見えた。間抜けた独り言が寥廓たる大広間へこだますると、グラウルングと呼ばれた化け物は狡猾に目を細め、 「ほう。そなたはこのわしに魚を釣ってこいとのたまうのか。竜の始祖である、このわしに?」と灼熱の息で行く手を塞いだ。 「……めっそうもないです。自分で釣ってきます」  いとも簡単に脅しへ屈した彼女は機敏な動きで踵を返した。が、いつも私を助けてくれる俊敏さはどこへ捨ててきたのか、その娘は財貨の山で足を滑らせて見事に転倒してしまった。突っ伏したまま起き上がろうとせぬ彼女に長虫は大きく肩を落とすしかない。グラウルングは、「ああ、もう良い。構うでない。後でオークに持って来させよう。それまで空腹も我慢せよ」と一旦もたげた巨頭を横たえ、「原初の竜たるわしにここまで我がままを言う人間は後にも先にもそなただけじゃろうな」と遠けき声音で不満を放った。  あのトカゲはスマウグと同じ種族、竜らしい。翼がないドラゴンとは滑稽である。それにしてもグラウルングという名はどこかで耳にした気がするのだが。私は心中のしこりを融かす答えが欲しくて緩慢に上半身を起こす娘御へ意識を戻した。 「ねえ。グラウルングは自分を原初の竜と呼びますけど、他にも竜が?」  すると翼なき竜は片目を開き、オーク数匹分はあるであろう巨大な瞳孔をうっすらと見開いた。 「さよう。飽くなき探求心を持つ我らが冥王は初めの竜としてわしを創りたもうた。その後も試作を重ね、闇に蠢く同胞を創り出さんと研究を重ねておる。だがこのグラウルングが誕生して二百年、原初たるわしを上回るドラゴンは生まれておらぬ。ことに我が身へ秘めた魔力に関しては、今後も始祖を勝る竜は創れぬじゃろうな」  この十二ヶ月、私がホビット庄の隣人へ自慢できることの一つに、ドラゴンに関する知識がある。竜は寿命がないだとか、ずる賢くて詭弁を使うだとか。鍵穴から天を覗くようにドラゴンへ通暁したあの女性を通して無知な私はささやかな知識を吸収してきた。だが魔力を持つ竜とは寝耳に水である。なにやらこの黄金竜は危険な香りがぷんぷんするぞ。けれど恐れ知らずなことに、親しげに言葉を交わすその娘は「始祖はそんなに偉いものなんですか」と無礼千万な口を利くではないか。  「格が違うのじゃよ。人間が祖先の血を重んじるように、総じて始祖とは強力な力を持ち崇められる存在じゃ」  竜は誇り高い生き物だ。他種族を侮蔑する傾向が強く、創造主たる冥王以外を敬うこともない。しかし、その彼らにも暗黙の位階が存在するらしい。 「して人の娘よ、わしからも一つ問うとしよう。冥王はいかようにして我ら闇の生物を創り出すと思うか」 「知っていますよ。土を捏ねて、でしょう?」  ……この身体を自由に動かせるのなら彼女の口を塞いでやりたい。竜は濁声で喉を鳴らし、 「やあやあ、希有なる娘よ。やはりそなたは飽きぬな。そなたは竜が、ドワーフ同様に土から創られたと申すか。げに面白き話であるよ。しかし良いか、か弱き養い子。次にわしを愚鈍なドワーフ族などと同列に扱おうものならば、両のまなこをくり抜き、四肢を裂いて、悶え苦しむほど散々にいたぶって殺してやろうぞ」  彼は告げる。竜を始めとする闇の生き物は、冥王が自らの力、とりわけその莫大な魔力を注いで創造するのだと。つまり創られた順番が前であればあるほど冥王の闇へ近く、始祖と自負してやまぬ金色トカゲは竜の中で最も濃い闇の魔力を授かっていることになる。 「有限なる力はいずれ枯渇する。冥王とて無窮の力を持っている訳ではないぞ。しかるに創造物へ力を注げば注ぐほどその力は薄れ疲弊するのだ。悲しいかな、わしや悪鬼を創りたもうた冥王は以前ほど強大な力を有さず、猛々しきその御姿を保つのも一苦労であろう」  だからこそ己や召使いが冥王の手足となりエルフや人を蹂躙せしめるのだとグラウルングは優越感に浸り牙を剥き出した。私は悪意に当てられて目眩を覚える。が、娘は慣れているのだろうか。「でも」と平たい声を漏らしたかと思えば、 「ずっと思ってたのですが、グラウルングって翼ありませんよね」と呟いた。あああ、なんてことを。彼女はもう少し口を慎んだほうが良いんじゃないか。竜は明らかに興を削がれた様子で苛立たしげに瞼をひくつかせた。 「そなたはドラゴンに翼があるべきと申すのか」 「だって竜は空を飛ぶ生き物では。グラウルングが飛べるなら背中に乗りたかったです」 「ふむ……翼竜など初めて聞いたが、翼はあって困るものでもなかろうな。成る程。そなたは大空を欲するか。宜しい、考えおこう」  長虫が浮かべた会心の笑みはどす黒い底なし沼を彷彿とさせた。ドラゴンは何かを企んでいる。その何かは分からないけれど、彼女にとり良くないことだ。私は警告しなければと焦燥感に駆られたが不可視の靄に阻まれ声を出すことさえ叶わなかった。  ねえ開けて。ここから出して。かの身体は私のものであって私のものに非ず、ビルボ・バギンズは彼らを監視する「眼」と融和してそこから逃れる術を持たなかった。ぐるぐると景色が混ざる。走馬燈を見ているかのように刻が早送りされると処理が追いつかず、ひどい吐き気に襲われた。  そうしてどれほど経ったろう。いつしか世界は黄金から白亜へ様変わりしていた。見渡す限りの氷原である。先刻まで洞窟を浮流していた私とその「眼」は広大な荒野を眺めていた。戦だろうか。精妙な氷の柱が何百マイルにも渡って並み立ち、遠くで二つの勢力が睨み合っている。  オークとエルフ。両者は大空を羽ばたく何かを仰ぎあたかも許しを請うように地へ伏せていた。それは太平の世にあるまじき生き物――ドラゴン。片やオークは茶焦げた鱗の巨大な竜を崇め、片やエルフは力に充ち満ちた小柄な白竜へ祈りを捧げていた。まさしく輝ける至宝である。闇の生き物でありながらあれほど魅力的な生き物を見たのは後にも先にもこれっきりかもしれない。二匹は軍の脇をゆったりと旋回して眩い光を放った。その直後だ。真っ赤な劫火と凍て付く寒気が視界を覆い尽くし、僅かに拮抗したかと思えば、しかる後、閉塞した厳冬の世界が訪れていた。  茶色いドラゴンはかの者が放った業火もろとも氷の彫像となり果て、オークを道連れに死の静寂へ打ち沈んでいた。いや、エルフも例外ではない。白竜を崇めていたはずの彼らはそれが纏う冷気に巻き込まれ、幾ばくの同胞のみを残して氷結していた。凡てが停止した世界はさながら廃墟である。しかし私の心は満ち足りていた。なぜなら生きとし生けるものへ永久の安らぎが与えられたのだ。生存者は白竜、魔力へ対抗し得る力を持った僅かなエルフ、そして「眼」を除き誰一人おらなんだが、今この場にあるのはただ静かな眠りだけ。苦痛を伴って凡てを灰燼と化す火竜の業火へ身を焦がす者はおるまい。そう、心優しき虐殺は耳が痛くなるほどの無音と衰えることなき美を与え、冥王へ捧げるに相応しい酷寒の世界を創り上げていたのだ。  氷漬けを免れたエルフ達も寒さのあまり戦意を失い、静かに頬を涙で濡らすだけだった。その雫とてすぐさま凍ってしまうが、彼らはろれつの回らぬ口で救いを請う。私はその一人に裂け谷の主がおわすのを認めた。けれども卿だけは凜と立ち、高貴な力で極寒の魔法を撥ね除けていた。 「何ゆえに我らへこんな仕打ちをするのだ。エルフはそなたの同胞ではなかったのか。どうして、どうして仲間まで殺す必要があったのだ。指輪に魅入られたのでなければ答えてくれ、我らがニムダエよ!」  彼は先だって顔合わせした時と寸分違わぬ造形へ尽きぬ絶念を浮かべて悲愴に叫ぶ。されど白竜は答えない。それどころか、かの大珠は無情な光を纏い、生き動く者は一つ残さず氷漬けにせんと白く輝く鱗に誓っていた。酷寒の力は刻一刻と増していく。相手がエルフだろうとオークだろうと、見境なく標的と定められた。迫り来る攻撃を予感した卿は動揺を押し隠し、寒空へ剣を掲げてドラゴンの前へ進み出た。 「エルフでありながら人の血が流れる私は、同じ狭間の存在として、かつて人だった竜へ深く同情したものだ。しかし今は違う。酷寒の徒と化したそなたに抱くのは悲しみと憐れみだ。奥方が愛でし白竜よ、安心しなさい。落とし子であるがゆえに冥王の呪縛へ逆らい得ぬと言うなら、かの指輪もろともこのエルロンドが破壊せしめん。ああ、呪われよ、呪われよ、冥王の召使いめ! 我ら森の精から愛しき白竜を奪ったこの憎しみ、生涯忘れるものか!」  裂け谷の卿は黒髪を靡かせて氷を打ち払い、深い愛情を伴って白き虐殺者を罵った。刹那、私は感情の爆発を感じた。憤慨、嘲笑、不快感――傍観者へ徹していた「眼」は卿の慈愛に激しい嫌悪を覚えていた。指輪を壊すなど生意気な。そんなことは不可能だ。次代の冥王たる我を軽んじる存在は真っ先に消すべきだと黒水晶へ映る情景をかき消す。  ――私の意識はそこで途切れた。 *  目を覚ますと私はいつものビルボ・バギンズへ戻っていた。首、腕、足と自由に身体が動く。初秋の中つ国は寒さのあまり皮膚が破けることもなければ、死の静寂に憂くこともなく、一行はビヨルンという大熊の家へ不法侵入して夕食前の束の間の休息を享受していた。  どうやら小屋へ入ってすぐ失神した挙げ句、悪夢に魘されていたらしい。脂汗で服が肌に張り付いた。私は例の拾いものを指の腹で撫でて心を落ち着かせると、煌々と燃ゆる炉端に、頭ごなしに説教するガンダルフと正座したまま器用に転た寝をするスキラを見出した。 「血を流すなどおぬしらしくもない。どうかしておるわい。そこ、聞いておるのか、スキラ!」 「うっ。も……もちろんですとも。と言うかミスランディアほど耳は遠くないので、もう少し小さな声でお話くださっても大丈夫です」 「微塵も反省しておらなんだ!」  大義そうに答えるスキラが形だけでも大人しく叱責を受けているのは、己の非を認めているためか。なぜかその隣で頭に斧が突き出たビフールも一緒に怒声を浴びていたが、単に座る場所を誤っただけかもしれない。私を旅に連れ出した魔法使いは床板を叩き抜かんばかりに杖底で二回打ち鳴らし、 「良いかスキラ、わしは旅立つ時に忠告したはずじゃ。もう少し己の立場に自覚を持てと。ドラゴンの――ドラゴン討伐専門家としての自覚を。如何にも、おぬしは強い。睡眠を必要とせず、長き飢えに耐え得るその身体は危険な旅では頼もしい限りじゃ。しかし自覚が足りんのじゃ。だからこそ奥方やエルロンド卿の許可を得て引っ張ってきたと言うに……この旅へ前向きになったという点以外、ちっとも改善されておらんな」と嘆いた。  熱気を伴う夕日が三人の座するきざはしへ濃い影を作る。金の粒子を浴びる相貌は竜の柔腹で寛ぐ娘と瓜二つであった。そこで私は気が付くのだ。そうか黄金竜と居たのはスキラだったのかと。しかし同一人物なのだと納得するまでひどく時間が掛った。かのスキラは今の彼女よりずっと人間らしい存在に感じたからだ。  あどけないあの面構えを成熟させるまで彼女は幾度の光陰を眺め過ごしたのだろう。スキラは私が想像するよりずっと年上なのかもしれない。ビフールの手を借りて包帯を解く彼女は「考え事していたら反応が遅れてしまって」とこびり付く乾いた血を濡れ布巾で拭き取り、傷口を労った。血は止まっていたが、ガンダルフさえ口を噤む生々しさである。医学に明るくない私が見ても傷は深く、オークの牙は骨まで達していた。  しかし彼女は痛みに騒ぐでもなく、 「……少し痛いけど、問題なさそうですね」と腕を動かした。 「馬鹿もん。それで痛くないほうがおかしいじゃろう。しかし腕は使えるのじゃな。わしが心配するような最悪の事態ではないと分かってなによりじゃ。ああまったく、寿命が縮まるわい」  一行のリーダーでありスキラの旧友である灰色の放浪者はとんがり帽を脱ぎ、乾いた藁しべへ腰を下ろした。背を向けているのはしばしお前と話したくないという意思表示か。小うるさい説教が終わると彼女は夢心地から覚め――むしろ眠そうな態度は演技だったのではないか――外套に身をくるんでビフールへ寄りかかった。  不思議とあの二人は馬が合うらしい。スキラはおどろおどろしい風貌をした玩具職人が器用に木屑を削る様子を観察し、二言、三言、ぽつりぽつりと言葉をさし交わした。 「なんでしょうビフール? あー……あの時何を考えていたかって? ええ。ちょっと思い出に浸っていたんです。懐かしい名を口にしたら会いたくなって」  するとまたビフールが答える。私には解読できないドワーフ語だ。しかしスキラは理解していると見えて柔らかく応答した。 「ふふ。親と言うか、養いびとです。大きくて、強くて、魔法も使えて。だけどとんでもなく意地悪でした。泣かされた回数は数知れず。けれど思うのです。彼に会わなければ私はここにいなかったし、あなたやトーリン、ビルボ達と旅をすることもありませんでした。原初のひと、空を飛べぬひと。彼との遭遇は決して不幸の始まりなどではなかったのだと思います」  私はおぼろげな夢を思い起こした。黄金竜と人の娘。依存している様で独立した一人と一匹は離別し、スキラだけが今この時を歩んでいる。どうして竜と暮らしていたか存ぜぬが、無傷を誇ってきた彼女があわや腕を失いかけるほど大きな存在なのだろう。私は何か元気づけるものはないかと辺りをまさぐった。 「これ、くれるんですか?」  すると談笑していたビフールも、珍しく煩慮するその人を案じたのだろうか。彼は翼を生やした木彫り人形を手渡した。ドラゴンである。「竜討伐家」という肩書きを意識させるそれは、巧まずして白き竜の面影へ重なり、私はぞわりと鳥肌が立った。ああ、死へ誘う酷寒の世界。竜が暮らす生暖かい洞窟よりも、エルフが暮らす清らかな森よりも、彼女には寂寞とした氷原が似つかわしいと過ぎった。 「ありがとう。ドラゴンをこんなに可愛く作れるのはビフールくらいですね。あのスマウグだって、あなたの手に掛れば形無しかも」  首を捻り、翼を広げて吠える人形を斜陽へ透かし照らすスキラ。色んな角度から眺め回すと、ふいに指で翼を隠す。彼女は金色の長虫そっくりになった玩具に知らず知らず口元を緩めていた。それは黄金竜が浮かべたどす黒い笑顔と似ても似つかぬ穏やかな表情である。氷像へほとほとと舞い積もる細雪と見まごう清らかな装いに安堵を覚える一方、夢であれ、スキラの秘密を垣間見てしまった罪悪感に胸が重くなった。私は憂心を鎮めるべくポケットへ指を突っ込む――黄金竜と同じ色を宿す指輪が、脈動した気がした。  

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